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017 有限会社シス・カンパニー

お客さま、出演者、スタッフを大切にする舞台運営はコロナ禍においても不変。スピーディーな演目変更やラジオ番組の開設など、ノンストップの企画力で駆け抜ける

令和3年で設立32周年を迎える有限会社シス・カンパニー

事務所探訪第17回は「有限会社シス・カンパニー」。舞台・映像・伝統芸能などの幅広い分野の作家・演出家・アーティストのマネジメントと、すべての作品で高い評価を受ける「シス・カンパニー公演」の2本柱で、演劇界・映像界において特出した存在感を示しています。

今回は、代表取締役社長で演劇プロデューサーの北村明子さんに、舞台づくりのこだわりや、コロナ時代の興行のあり方についてのお考え、マネジメントにおける新しい試みなど、さまざまなお話をうかがいました。

■ 夢の遊眠社のマネジメントから出発。手がけた舞台は高い評価を受ける

良質な舞台をコンスタントに生み出す演劇プロデューサーであり、芸能事務所の経営者としての顔ももつ北村明子さん。長年にわたるエンターテインメント活動の成果として、平成27年には紀伊國屋演劇賞50回記念特別賞制作者賞が、平成28年には第11回渡辺晋賞が贈られました

当社の前身は、1980年代の人気劇団「夢の遊眠社」の事務所内に立ち上げたマネジメント部門「えーほーしよう会」です。発足から3年後の平成元年に法人として独立し、シス・カンパニーとなりました。シス(SIS)は情報戦略システムの略です(Strategic Information System)。その頃のIT業界でよく使われていたこの言葉を社名にしたのは、演劇界や映像界にも情報戦略が必要だという考えからでした。マネジメントは“人と会う”のが基本のアナログな仕事ですが、情報が命。マネージャーが情報通であることが、所属者の売り込みにつながります。当時の所属者は劇団員30名。スタッフはマネージャー(営業担当)、デスク(事務専任者)が1名ずつと、代表の私の3名でスタートしました。

平成4年の劇団解散後、舞台のみならず、幅広い分野のアーティストを加え、マネジメント業務を拡大。舞台制作部門も設立し、野田秀樹さんとともに立ち上げた「NODA・MAP」のプロデュース公演の制作をシス・カンパニーで全面的に請け負い、平成6年から平成20年1月までの全作品制作を手がけました。

平成10年には独自の舞台制作、いわゆるシス・カンパニー公演をスタートし、平成14年の『売り言葉』から本格化しました。平成18年には、30分の作品を一度に2本上演した『父帰る/屋上の狂人』や、『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』、『獏のゆりかご』の成果として、紀伊國屋演劇賞団体賞をいただくことができました。『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない?』では読売演劇大賞最優秀作品賞を、ジョージを演じた段田安則も読売演劇大賞の大賞(グランプリ)・最優秀男優賞、および朝日舞台芸術賞を受賞しました。

■ お客さまの立場になって考える舞台づくり

私は年間4~5本の舞台をプロデュースしていますが、稽古が始まったら稽古場に毎日足を運びますし、公演が始まれば劇場に毎日行きます。こういう生の仕事をしているからこそ、どのようなお客さまがいらっしゃるのか、どんな表情をしてお帰りになるのかを自分の目で確かめたい。「自分たちは、お客さまからお金をいただいて生活をしている」というのが興行の原点ですから。お出迎えとお見送りのご挨拶は欠かしたことがありません。

演劇プロデューサーとして、これだけは譲れないものを言うとしたら、役者の芝居が見えない“見切れ席”をできるだけ作らないようにすること。自分が観客だったらストレスになって嫌でしょう。ですから、全フロアの客席の両サイドに座って、「見えないからもっとこっちに出て」と役者に指示したり、そういうことには、演出家よりうるさいと思います。それでも一度、直前になって、あるシーンだけまったく見切れてしまう席があることがわかり、開演前、その席のお客さまに直接お詫びをお伝えしながらパンフレットを配ったことがあります。

■ 公演中止……未曾有の危機に直面するも瞬時に切り替え、次の展開へ

令和2年の『桜の園』はゲネプロを控えた4月6日、翌日に緊急事態宣言が発せられる知らせを受け、やむなく全公演中止の判断をしました。もちろん、出演者、スタッフの皆さんにはきちんと全額をお支払いしましたが、もう一度やり直すことは考えていません。企画は生き物です。そのときに成立したものが、続くとは限りません。このご縁がまためぐってくるときがあれば、やれるでしょう。頭を切り替えて次に向かうことを今は考えています。

■ 新国立劇場 小劇場で急遽、密にならない3つの公演に挑戦

シス・カンパニー公演『たむらさん』の全編映像を『SISチャンネル』にて無料公開中(令和4年1月11日まで)

『桜の園』が中止になった時点で、「次の公演では1席飛ばしの座席配置にし、空いた部分は配信で補います」と社員に伝え、公演再開に向けて動き出しました。もともと9月から新国立劇場小劇場で出演者数の多い新作を長い期間上演する予定で準備していたのですが、それはこの状況下では難しい。そこで公演期間を3つに分けて、人数を抑えた芝居を3本打とうと。

まずピーター・シェーファーの三人芝居『わたしの耳』『あなたの目』を2作連続上演することにしました。最後の3本目は、誰かすぐに書ける人にオリジナル脚本をお願いしたかったので、「劇団た組」の加藤拓也くんにオファーしてみたんです。「加藤くん、すぐ書ける?」と聞いたら、「すぐ書きます!」と即答でした。本当に早かったですね。30分の一人芝居を発注したのですが、でき上がってきたのは約50分の二人芝居『たむらさん』。二人芝居なのですが、大半が男の一人語りで、もう一人はほとんどしゃべらない奥さんなんです。とてもおもしろいアイデアでした。

じつは彼とは以前から令和3年の企画が進行中で、彼の力はわかっていましたから、安心してお任せしました。独特の世界観をもつ彼の書くものは摩訶不思議な作品ですが、私の感覚ととても合うと思っています。楽しみにしていてください。

シス・カンパニー公演のチラシ。令和2年の自粛期間明け後の公演では、イラストを多く採用し、出演者の似顔絵を描いた目を引くデザインに(『わたしの耳』『あなたの目』の絵を手がけたのは伊波二郎さん)
シス・カンパニーで作成した感染症対策のチラシ

■ ライブ配信で得た利潤は平等に分配

『わたしの耳』『あなたの目』は、オンラインでライブ配信をしました。劇場で観る方と同じ時間が共有できる、アーカイブなしのライブ配信です。ピーター・シェーファーの作品は、通常なら配信許可は下りなかったと思いますが、エージェントを通して交渉してみたところ、世界的な状況を鑑み、特別にお許しいただけました。

2公演とも一日のみの配信でしたが、『わたしの耳』は約1200人、『あなたの目』は約1300人の方が視聴してくださいました。「家で気楽に観られてよかった」という声が多かったです。もちろん、“生”で観る臨場感にはかないません。ただ、みんなで一緒に観る楽しさと、一人でお酒を飲みながら観る楽しさは違います。コロナ禍が過ぎ去ったあとも、配信はスタンダードになっていくでしょうし、シス・カンパニー公演でも続けていきたいと思っています。

視聴料金はできるだけ安くしたいと思い、2000円にしました。本当は映画に対抗して1500円にしたかったのですが、それは無理でした。配信で得た利潤は、演出家、3名の出演者、シス・カンパニーで5等分。明細をきちんと書いて手渡したら、役者はみんな驚いていました。彼らがお客さまを呼んだのですから、当たり前のことなんです。そういうことをきっちりしておかないと、これから先、ライブ配信を続けていこうとなったときに、きっとうまくいかないはず。役者だって、一銭にもならないことをしたいと思わないでしょう。

■ 独自の感染症対策としてパーテーションを設置

飛沫・接触感染を防ぐパーテーションを客席に設置。600個ほど所有しています

コロナ禍の今、「感染するかもしれない」という恐怖と闘いながら、「それでも観たい」というお客さまが劇場に足を運んでくださっています。政府からの規制緩和で、収容率100%以内にできることになりましたが(※)、いくら緩和されたからといって、実際には感染者数が増えているなかで隣同士座るのは、自分が観客だったら不安でしょう。少しでも安心していただけたらと思い、客席のひじ掛けに取り付けられる不織布製のパーテーションを自前で作り、令和2年12月の『23階の笑い』では設置していました。シス・カンパニー公演期間以外でしたらお貸しすることもできますので、必要な方はお声がけくださればと思います。
※令和2年12月時点の状況

■ 営業力が試される若手俳優を迎え、新たな体制に

事務所内部の様子

現在、所属しているアーティストは30名。マネージャー4名で担当していますが、そのうち3名は営業担当として動いてもらっています(※)。シス・カンパニーは営業第一主義で、基本的に「現場は役者本人に任せる」というスタンス。売り込みこそがマネージャーの仕事です。

所属者はベテラン揃いです。新人募集はしておらず、新しく入ってこられる方はしばらくいなかったのですが、令和2年春、あえて営業力が試される若手の方3名に入っていただくことにしました。新規開拓の営業ができるので、マネージャーのモチベーションアップにもなると思いました。

しかし、いざ売り出していこうとした矢先にコロナでしたから、営業に出て行くのも難しい状況です。相手の顔を見て熱意を伝えることを強みとしてきたシス・カンパニーが、今は情報取りだけ。あとは所属者のYouTubeチャンネルを立ち上げるなど、インターネットを使って所属者のことを知ってもらうことにも注力しています。
※令和3年1月現在

■ シス・カンパニーの総力を集めたラジオ番組がスタート

収録中の浅野和之さんと鈴木浩介さん

令和2年8月から、「Radiotalk(ラジオトーク)」という音声配信サービスを使って、『シス・カンパニーの愉快なラジオ』というラジオ番組を始めました。パーソナリティーは全員、シス・カンパニーのアーティストです。月曜はマギー、火曜は八嶋智人、水曜は峯村リエと西尾まり、木曜は鈴木浩介と梶原善が隔週交代で、金曜は高橋克実、土曜は野村萬斎、日曜はランダムで、堤真一、キムラ緑子、井上小百合、岩本晟夢が出演。時々、私も駆り出されて出ています。「Radiotalk」は、いつでもどこでも収録できる、いわばYouTubeの声版。声だけなのでヘアメイクの必要もありませんし、場所を選ばないので、私も公演をしている劇場で収録したりしています。

なぜ、今、ラジオなのか。役者のスキルのひとつとして、トーク力を鍛えてもらいたいという思いがありました。マギーと八嶋智人はもともとスキルがありますが、最長12分という限られた時間を使ってどうしゃべるか。ただおしゃべりするだけではなくて、ワンポイントを入れてしゃべれるようになってほしい。また、テレビ局の方にはラジオが好きな方が多く、売り込みの方法としてもラジオは有効なのです。演劇のお客さまにもラジオ好きの方が多いので、公演の宣伝効果も大いにあります。

■ 所属者に厳しいルールを課す理由

遅刻は3回したらクビ、契約は1年更新。所属する方にはまず、そう言い渡します。緊張を強いることはわかっています。しかし、一人が遅刻すればシス・カンパニーの所属者全員が信用を失ってしまいます。契約については、まず私自身がそれ以上先のことまで保証することができないということ。また、ここで売っていくのが限界だと思えば、切らなければならないときもあります。

仕事である以上、厳しいことを言わなければならないこともあるので、所属者とは必要以上に仲よくならず、距離を保つように心がけています。とはいえ、心配りは大切です。例えば、誕生日には、スタッフ全員でメッセージを書いたバースデーカードとプレゼントを贈っています。仕事で売れればその分、プレゼントもいいものになっていくので、所属者も楽しみにしているようです。コロナ禍の今は皆さんと顔を合わせることもままならない状況ですが、これは変わらず続けています。

■ 好評を博したミュージカル『日本の歴史』が再演決定!

令和3年7月再演予定『日本の歴史』

「再演嫌いの北村」と言われている私ですが、平成30年に上演した『日本の歴史』を令和3年7月、再演します。三谷幸喜と初めて作ったミュージカルで、初演のとき本当に楽しかったんです。当初は「ミュージカルはやりません」と断言していたのですが、「そういうミュージカルじゃないんです! 北村さん!!」と三谷に説得されてやってみたら、本当にその通りでした。「これをミュージカルと呼ぶのなら、私は好きだわ」と。そう思えた最初の経験でしたから、その記念に再演することにしました。『叔母との旅』以来の2度目となる再演です。初演をご覧になった方も初めての方も、ぜひご期待ください。

 

有限会社シス・カンパニー ホームページ http://www.siscompany.com/
シス・カンパニーの愉快なラジオ https://radiotalk.jp/program/55882
俳優部公式Twitter https://twitter.com/sis_management
舞台制作公式Twitter https://twitter.com/sis_japan
舞台制作チーム公式Instagram https://www.instagram.com/siscompany_stage/
YouTubeチャンネル『SISチャンネル』 https://www.youtube.com/c/SISチャンネル

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