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005 ワイルドビジョン

ADやマネージャーといった多角的な経験をもつ社長が経営する 「株式会社ワイルドビジョン」。スタッフにとってもタレントにとっても、 最も重要なのはコミュニケーション。 義理と人情が土台のマネジメントを通じ、 二人三脚でタレントの夢をサポートする

ワイルドビジョンの事務所は1フロアに複数のオフィスが入居。「芸能部」という看板が目じるし

事務所探訪第5回は、「株式会社ワイルドビジョン」です。テレビ制作会社でAD、芸能プロダクションでマネージャーの経験をもつ鷺坂勝氏によって設立されたプロダクションです。鷺坂氏は、テレビ番組・イベントといった制作現場の経験がある一方で、関根勤さんやキャイ~ンさんのマネージャーを計13年担当したという経歴ももつ、芸能マネジメントのベテラン。その豊かな経験を活かして経営する事務所には、現在、女優の遠野なぎこさんや、俳優や野球解説者として活躍する愛甲猛さんなど、タレント6名が所属しており、マネージャー1名、AD2名という少数精鋭でテレビ番組の制作、プロダクション業務、各種イベント企画など多岐にわたる業務を行っています。

今回は、社長の鷺坂氏にお話をうかがいました。

■ 35歳で、13年勤務した浅井企画を退社後に起業

浅井企画という芸能プロダクションで、22歳から35歳まで、マネジメントを担当していました。関根勤さんの現場マネージャーを経て、9年半キャイ~ンさんの担当を。ですが、ある時、このまま一会社員であるマネージャーでいくのか、と悩み始めたんです。会社や担当したタレントたちと揉めたわけではなく、それなりに自分の地位も築き上げていたと思うのですが、人生は一回きりだし、悩んでいました。浅井企画の中でもいろいろなことに携わっていたのですが、自分のやりたいことをやってみようかなと。それが32か33歳ぐらいでした。35歳になったとき、一緒に仕事をしようと声をかけてくれた方がいて、それを機に立ち上げてみようと思い、辞めたわけです。

会社員でしたら、普通に仕事をしていれば給料が振り込まれますが、それが会社経営となると、仕事をとってこなければ当然収入もありません。会社員と経営者では考え方がまったく違いますし、経営者は社員に弱いところは見せられないので、当初は資金繰りが大変でしたね。

でも、浅井企画社長様に「最初は大変だと思うが、家族ときちんと生活できるように頑張りなさい」と励まされ、想像以上の退職金を用意していただけたことがとてもありがたかったです。また、キャイ~ンのおふたりも後押ししてくれました。「タレントは夢をもって仕事をしている。それをサポートしてくれているのがスタッフ。そのスタッフが夢をもってやろうとしていることを止める権利なんてない」と。そして「自分たちもサポートするよ」とも。男泣きしましたよ。周りの方にそう言っていただけたのもすごくありがたいことでしたね。

毎年携わっている「東京ラーメンショー」や『現代狂言』のチラシ

社名の「ワイルドビジョン」は、もう登記に出さなければいけないという間際になってパッと思いついたんです。ピンときた感じですね。

最初は、制作会社としての業務からでした。浅井企画に入る前、ホリプロの制作会社であるホリックスでADを経験し、それからマネージャー業に異動したという経緯がありましたので、テレビ番組の制作や「東京ラーメンショー」の企画運営、『現代狂言』のプロデュース、テレビ制作部門へのAD派遣などを行っていました。

■ 夢やビジョンをもって活動できるようタレントをサポート

設立時、業務内容としてプロダクション業務も入れていたのですが、とくに当社で抱えるタレントはいませんでした。マネジメントを始めたのは2年ぐらい前からです。これは、現在当社に所属する女優の遠野なぎこが以前の事務所との契約が切れるというタイミングでした。知人から、どこかいい事務所はないかという相談を受けて遠野に会い、「お試しということで一緒にやりましょうか」となりました。お試しも終わり、昨年4月から正式に所属タレントになりました。

愛甲猛は、フジテレビの『アウト×デラックス』という番組で会ったのがきっかけです。私が昔、野球をやっていたことから、野球つながりでいろいろ話をしたら「マネジメントする人がいない」という話になり、「じゃあ一緒にやりましょうか?」という流れですね。そのほか、16歳で起業した本部映利香といった文化人やタレントも含め、計6人のマネジメントをしています。

若い頃は、マネジメントをするにあたり、よく周りとケンカもしました。自分もとんがっていたし、強引さもありました。今思うと若気の至りですが、タレントを守るがゆえの行動でした。タレントがビッグになると、その発言の影響力が大きくなります。そういったことをいち早く察知し、制作側に交渉することもあったので、「誰がそんなこと言っているんだ」と、上の立場の人を通して注意されたことも。タレントが言えないことを言うために、自分が悪者になることもよくありました。

今は、経営者として、私のやり方で進めています。タレントにきちんと話をして、こういうコンセプトでいくということを明確にしてあげて、自分の夢やビジョンをもって活動していけるようサポートをしていければいいと思います。

■ マネージャーの極意は、気を遣うこと、先を読むこと、ユーモラスであること

マネージャーに必要なのは「気を遣う」「先を読む」「ユーモラスである」の3つであると鷺坂氏

東放学園専門学校で「マネージャー講座」の講師を8年ほど務めています。生徒たちによく言うのですが、マネージャーは基本的には、言い方は悪いですが、バカでも天才でもどっちでもいいんです。一番のポイントは、気を遣えるか、先が読めるか、ユーモラスな人間であるか、この3つなんですよ。

まず、気を遣えない人は現場には向かないと思います。タレントがいかにスムーズに1日の仕事ができるかを考え、行動で示してほしい。「じゃあ行きましょうか」と移動するときに、さっと立ってドアを開けるとか、自分が先に乗ってエレベーターのボタンを押すところにいるとか、タクシーのどこに乗るかとか。そういう一般的なことをわからない子がすごく多い。それを理屈っぽく主張してくる子もいれば、僕/私はダメだとすぐにあきらめてしまう子もいる。「ゆとり教育は……」と言いたくないですが、切実な問題ですね。まだ仕事もしていないのに給料や社会保険のことを聞いてくる子もいますが、「その前に、あなたがどういう働きをするか見せてほしいな」と思います。人のことを考えなければならないのだから、自分のことしか考えられない人にマネジメントなんてできません。それで、先の3つを生徒にもよく言うし、自分もそれを心がけています。

■ タレント自身の努力の先に成功がある

タレントのほうにも何か特徴がないと、マネジメントをする側としては営業できません。事務所に送られてくるプロフィールの中でとくに注目するのは、特技と趣味です。人と全然違うことできるとか、とてつもない趣味をもっているとか。それだけでも全然違いますよね。

タレントはみんなテレビ業界という大きなピラミッドの頂上を目指す。だから、そのすごく小さなところを自分がどうやって攻めていくか考えて努力しないといけない。それを理解したうえで、お互いのプロフェッショナルという意識が結びついたときに、二人三脚で、どんなビジョンをもって活動していくかを考えるというのがマネジメントだと思っています。

お笑いタレントを担当していた頃、私自身が面白いと思わなければ売らない、という信念をもってマネジメントをしていました。例えば、タレントの力が100%あったとします。どんなに権力や地位、名誉があるマネージャーだったとしても、そのタレントに対するマネージャーの役割は、どれだけ頑張っても最大で49%です。51%以上はタレントの力。マネージャーの力が50%を超えることはありません。最終的には、そのタレント本人が頑張ってくれなければ、私たちの縁の下の力持ち的な能力も発揮できないのです。「マネージャーの力は少しだけで、あとはあなたが頑張らないといけない。一度、本線の線路にのっけることはできますが、その本線でずっと行けるかどうかはあなた次第。途中、脱線したり脇道の線路に行っちゃったりしたら、それがあなたの実力」。飲みに行ったりすると、よくそういう話もしますよ。

私はお笑いの世界で仕事をしてきたのでそういう例え方をしていますが、基本は俳優や女優も変わらないかなと。アイドルを育てる場合、事務所のパワーが必要だし、お金をかけなければならない。それにのっかっていく女の子たちは、最初は言われるがままに動いていますけど、生身の人間ですから自分がやりたいことも出てくる。そうなったとき、最終的に残れるかどうかは本人次第ですね。こうした私のコンセプトは、下の者にも伝えていきたいと思っています。

■ 女優・遠野なぎこと話し合いながら築いた信頼関係

「タレントの見せ方を考えることこそマネージャーの仕事」と鷺坂氏。タレントとの信頼関係を築くことが大切とも

女優は、バラエティー番組にはあまり出ませんが、遠野は、親との確執から摂食障害があり、いろいろ病気をもっていることをカミングアウトしています。あえて自分が表に出ることにより、悩んでいる人たちの先駆けとして頑張っている姿を見せようとしています。

実際、彼女のブログに「救われた」といったコメントが寄せられています。読者の9割ぐらいは女性ですね。うつや摂食障害について、人に言えない、相談できない、結婚して子どももいるけど旦那さんにも言えないという人が多いなか、「ブログで悩みを書いてスッキリした」「死のうと思っていたけれど、ブログを見て思いとどまりました」というのを見ると、「ああ、やってよかったな」と思います。ブログは賭けでした。メリットよりデメリットのほうが多いですよ。食品系のCMの出演依頼は来ないですからね。摂食障害という病気が少しずつ世間に認知されるようになってきたので、今後は講演もできるようになればと考えています。

「バラエティー番組に出るとドラマには出られなくなるのではないか」という怖さはありましたが、昨年、フジテレビのドラマ『リーガルハイ』や2時間ドラマに出演しましたし、今度は昼のドラマにも出演が決まっているので、考えていたよりは出演できるんだなと。たぶん、これまでそういうふうにやってきた人がいないからでしょうね。タレントのイメージもあるので、これについては、プロダクションとタレントとのコミュニケーションがとれているかがすごく重要だと思います。

ただ単にスケジュール管理だけをしているマネージャーも、この世界にはたくさんいます。遠野も最初はそう思っていたようです。私が、「この番組はこうだからこういう出方をしたほうがいいんだ」と話をしても全然目を合わせない。「ああ、ハイハイ」みたいな態度。取材を受けているときも、隣にいる私を無視しているかのように1時間まったくこちらを見ないわけですよ。どうしてだろうと思っていたので、4カ月ぐらい経ったときに「俺ってやりづらい?」と聞いたら、「番組に出るとき、どうしてこういうふうに出たらいいとか言うんですか?」と言うので、「いや、それがマネージャーの仕事でしょ」と。それで「遠野なぎこのマネージャー像ってどうなの?」と聞くと、「来た仕事を連絡してくれるのがマネージャーだと思っています」と。「それじゃあ、単なるスケジュール管理じゃん。それを求めているの?」と聞くと、「そういうわけじゃないですけど、これまでそういうふうにやってきたので……」と。「じゃあ、それはリセットしてください」と言いました。「マネージャーとして、私はこういうやり方をしていきます、それが嫌だったらやめましょうか?」と説明すると、「様子を見させてください」ということに。このやり方で進めていたら、彼女もだんだん心を開いてきて、自分はこうです、ああですと主張できるようになりました。「言ってすっきりしたでしょ? じゃあ、その考えを本にしてみよう」という話にもなり、昨年の3月下旬に自伝的小説を出版しました。今はすごくオープンに何でも話しています。そうでないとお互いの仕事も楽しくないですしね。

■ 気概のあるテレビ制作スタッフたちとのコミュニケーションが不可欠

テレビ業界というのは、持ちつ持たれつの世界だと思っています。すごくお世話になった人が何か番組を立ち上げるとき、例えば、その人がどうしてもうちのタレントを使いたいとなれば、お世話になった義理があるので協力したいと思っています。

昔は義理人情で成り立っていた番組もすごく多かったのですが、今は、局のほうがTwitterやFacebook、2ちゃんねるなどへの書き込みでビビってしまっていて、どこかが1人売れている人を起用すると、今度はどの局もその人ばかり使う……ちょっと悲しいですね、今のテレビ業界は。番組の内容も、今はほとんどがスタジオでのトークです。トークってもうやり尽くしているんですよ。ですから、でき上がった番組はだいたい一緒。テレビ局員も、面白いものをつくりたいと思って入っても、何かと上から圧力をかけられてしまうので楽しくないですよ。この人を使いたいとか自分が考えた企画が通ったものの、出演者を変えられてしまうといった話はよく聞きます。そういうのを聞くと悲しいなと思います。だけど、それが現状ですから、私のところのような小さい事務所は、いいものをつくろうと頑張っている若手のディレクターやプロデューサーたちと、いかにコミュニケーションをとっていくかが勝負ですね。

ワイルドビジョンが行っているイベント。
『現代狂言』は8回目を迎える

■ 8回目になる狂言とコントの融合『現代狂言』

ちょうど今、8回目になる『現代狂言』の公演に向けて動いています。とりあえず10回頑張ってみようというのが目標ですね。

会社を立ち上げる前、ウッチャンナンチャンの南原清隆さんが『ウッチャンナンチャンのウリナリ!! 』という番組の中で、「狂言部」をやっていました。講師として、狂言界の十八代目中村勘三郎さんのような存在だった五世野村万之丞さんをお呼びしました。部長が南原さん、副部長がキャイ~ンの天野ひろゆきさん、部員はチューヤンさんと小池栄子さん。その後、『ウリナリ!!』は終わってしまいましたが、面白いから舞台で続けようということになりまして。約600年前から続いている狂言はコントの原型だと言われていますので、それを学ぶということも含め、お笑いと合体させて「狂言とコントが結婚したら…」をテーマに『現代狂言』をやろうということで動きました。浅井企画と南原さん所属のマセキ芸能社から若手タレントも入れました。

1回目の公演が終わったタイミングでちょうど浅井企画を辞めました。ワイルドビジョン設立後、『現代狂言』のプロデューサーとして入ってくれないかと誘われ、キャスティングも担当しています。3回目のとき出演者に女性を入れることを提案し、以降は女性も出演しています。昔は能舞台に女性は立てませんでしたが、今は国立能楽堂にも女性が立つことができるようになっています。一昨年は安めぐみさん、昨年は宮地真緒さんと川村ゆきえさんが出演しました。

土曜・日曜で全国各地をまわります。九世野村万蔵さんとのご縁でこの舞台のことをご存じだった松坂慶子さんから出演希望があり、急きょ最終日だけ特別ゲストで出てもらうことにもなりました。遠野も、舞台への恐怖心がありましたが、いろいろなものにチャレンジしてみようと、今回出演させていただけることになりました。

■ 原則、仕事は来るもの拒まず。タレントたちとともに頑張りたい

事務所の風景。少数精鋭で業務にあたる

現在、スタッフはマネージャー1人とADが2人います。マネジメントは担当制ではなく、忙しいときは私がつくこともありますが、ひとりのマネージャーにだいたい任せていますね。スケジュールは私がおおむね管理し、若手のタレントたちに関してはマネージャーが中心となって管理しています。

今年の仕事については、基本的には「来るもの拒まず」ですよ。

遠野については、今年2冊目を出版する予定です。前回出版したのは、親との確執の中での病気についてカミングアウトの話ですが、今度は病気のことについて。NHKも含めて、特集番組を組むという話で進めているので、それを絡め、全国を講演で回れるようにするというビジョンをもって支えていきたいと思っています。そこから広げていけるといいですね。女優を軸に、いろいろな仕事をこなせていけるようになればいいなと思っています。あと、解説するときの愛甲の野球論はすごい! いろいろなことを率直にしゃべるので、ニコニコ動画のユーザーに愛されているんですよ(笑)。

これからも、タレント一人ひとりを応援していければと思っています。縁があれば、お笑いタレントのマネジメントもやりたいですね。

株式会社ワイルドビジョン ホームページ http://www.wildvision.co.jp/
現代狂言VIII「狂言とコントが結婚したら…」 http://gendaikyogen.jp/

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