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003 高瀬道場・ガイズエンタティメント

殺陣とアクションへの崇高なこだわりを具現化した「高瀬道場」「ガイズエンタティメント」。闘いのコンビネーションと卓越した技芸で魅了するのが殺陣プロだけでなく一般の方にも面白さを知ってもらいたい

東京都府中市に静かに居を構える高瀬道場

「事務所探訪」第3回は、殺陣・アクションの技術指導を行う「高瀬道場」とマネジメント業務を行う「ガイズエンタティメント」です。

高瀬道場は昭和46(1971)年、ガイズエンタティメントは道場のマネジメント部門として平成13(2001)年に設立されました。

今回は、高瀬道場の創設者・高瀬将敏氏のご子息であり、現在、主宰の高瀬将嗣氏にお話をうかがいました。

■ アクションの火を絶やさない―創設者である父・将敏の想い

昭和46年に、日活撮影所は一般映画の製作を休止し、ロマンポルノに移行しました。父・将敏は、当時日活のアクション監督をしていましたが、アクション指導の道を絶たれ、アクション演技研修所だった「日活俳優クラブ・技斗部」も閉鎖。しかし、邦画におけるアクションの火を絶やしてはいけないという想いで発足させたのが高瀬道場です。発足当時の在籍者はわずか7、8名でしたね。それから5、6年は、開店休業状態で厳しい時期だったのを覚えています。私が中学2年生のことでした。

昭和51(1976)年、日活は久々の一般映画と銘打ち、『嗚呼!!花の応援団』という三部作を製作しました。そのアクション監督を、かつて在籍していた縁で父が担当したんですが、これが大ヒットとなり、アクション俳優を目指したいという人が道場の門を叩くようになりました。

さらに昭和52(1977)年に始まったテレビドラマ『特捜最前線』のアクション監督を担当したことは大きな転機でした。この作品は、日活時代に親しくしていた二谷英明さんがお声をかけて下さったもので、父は死ぬまで感謝していたものです。

その二谷さんも昨年お亡くなりになりましたが、日活の製作転換で活動の場を失った父が、日活時代のご縁で再び仕事に恵まれたのは、なんとも皮肉なものでした。

■ 10代から斬られ役に扮していた後継者・将嗣氏

殺陣を広く知ってもらいたいとにこやかに話す主宰・高瀬将嗣氏

一人息子だったこともあり、漠然とですが、自分が道場を継ぐだろうと考えていました。決して嫌いな分野ではなく、むしろ大いに興味がありましたね。道場の創設時から父を手伝い、中学生の頃から現場に出ていました。時代劇の斬られ役、例えば忍者なら覆面をすれば、子どもがやっていてもわからないんですよね。

アクション監督というのは、自分でやってみせないと成立しない仕事ですが、当時の父は徐々に体調を崩しつつあって、気がつくと父から自分にシフトする形で大学卒業後に後を継ぐことになったんです。

■ 高瀬道場とガイズエンタティメントの二本立て

現在、本部・支部7カ所あわせ150名ほど在籍しています。講師は私を含めて7名です。組織としては芸道殺陣波濤流、つまり殺陣・アクションの稽古場である「高瀬道場」と、マネジメント部門の「株式会社ガイズエンタティメント」にわかれ、それぞれ独立採算で運営しています。

高瀬道場は殺陣・アクションの技術指導がおもな業務内容で、法人としての発足は昭和59(1984)年です。プロの俳優部、一般部、児童部にわかれ、一般部と児童部は原則すべてアマチュアの方で、年1回の発表会と、年1回プロだけで行う舞台公演を催しています。一方、平成13(2001)年に設立したガイズエンタティメントは、一般の俳優事務所として活動しています。

高瀬道場やガイズエンタティメントが これまでにかかわってきた映像作品の数々が並ぶ

マネジメント部門は、複数のマネージャーを雇う余裕はないものですから、事務所代表・多加野詩子がマネージャーを兼務してすべての仕事を行っています。現在、俳優は15名所属。俳優は基本的に一人で現場に行きますが、重要なシーンに出演するときや、重鎮の先輩俳優さんとご一緒するようなシーンでは、マネージャーもご挨拶するのが筋ですので同行します。また基本的に朝が早い、夜が遅い現場にはマネージャーが一緒に足を運びます。事務所の俳優が滞りなく仕事できるよう配慮するのがマネージャーの役目ですからね。

■ 稽古場でできないことは、現場でもできない

俳優が自分の生業のツールとして、アクションや殺陣を身につけるということに、ある意味の打算があって当然ですが、稽古事というのは、楽して結果につなげたいというような邪な考えがあると身につかない気がします。だから、近道しようとせずにステップアップを楽しむ一般の方のほうが、無駄のない技術を習得しているように感じますね。

プロである俳優は、よい意味で貪欲になって、特技として披歴できるアクション技術を身につけるべきでしょう。現場に行けば何とかなるだろう、現場で振りをつけてもらえば形になるだろうと考えている俳優は思った以上に多く、こと芸事に対して甘い部分があるのを感じます。稽古場でできないことは、当然現場でもできないんです。

俳優は、ライブである舞台で自分自身を高めていかないと、カメラの前に立ったときに満足な仕事はできないというのが私の考え方です。舞台は、幕が上がったら下りるまでがワンシーンであり、ワンカットです。やり直しはききません。この緊張感は重要ですね。映像では失敗しても撮り直しできますから。力量をキープするためにも舞台公演は今後も行っていくつもりです。

■ 日本初の殺陣流派「芸道殺陣 波濤流」の誕生

スタッフの精神的なよりどころとなる道場訓を掲げている

昔から剣友会やアクションクラブといった組織はありました。しかし私としては、一般にも門戸を開放したいという気持ち、また芸としての殺陣を広めたいと思い、組織の名称から創立者および現主宰の私の姓を省くことにしました。道場は個人の所有物でなく、そこに集う全員の拠り所ですから。

流派名の「波濤」は波のことで、寄せては返す法則を変えることはないものの、同じ形が二度とないことを殺陣の創意工夫に反映させたいという思いを託しました。流派を名乗ったことにより、一般の会員や門下生が増え、非常に効果的なコーポレートアイデンティティになったんです。

恒例の「殺陣技斗技芸会」は、アマチュアに若干のハンデがつきますが、プロ・アマほぼ同条件のもと、公平な審査を受けて順位を決定します。今年はのべ80人ほど参加しましたので審査も大変でした。プロの方もお誘いしていますが、5対1でアマ参加数の方が多いですね。それに今のところ優勝はこれまですべてアマなんですよ。プロはがんばらないと……。

しかし、いくら優秀であっても、一般部や児童部のアマチュアを安易にプロにスカウトすることは控えています。保障のない世界ですからね。プロの世界は実力はもちろんですが、運にも左右されます。趣味なら趣味として全うされたほうがよいと思います。アクション俳優になりたいという児童部のお子さんには「まず学校を卒業してから」とアドバイスしています。

■ グロス契約方式はギャラが不明瞭になりやすい

今までのアクションクラブや剣友会のメンバーがアクション作品に出演する際は、制作会社と「グロス契約」を結ぶケースが一般的でした。例えば、ある映画作品にアクション監督なり殺陣師が携わる場合、自分の弟子筋にあたるメンバーをアクションシーンに起用し、そして制作会社は一括して殺陣師にギャランティを支払う。あとはその中で割り振ってもらうという昔の親方制度のような仕組みをとるのです。

この契約方法のよい面は、入ったばかりの者からキャリアのある者まで力量に応じてギャラを配分できること。悪い面は、メンバーそれぞれが元来いくらのギャランティをもらえるはずだったのかがわからず、俳優としての位置づけが不明瞭になることです。

一方、グロス契約を行わないことにより、俳優各々のクレジット表記がエキストラでない限り、原則として保証されなければなりません。グロス契約だと事務所名やプロダクション名で終わってしまい、俳優個人の二次使用はどうなるのか?という問題が出てきます。画面に映ったら、たとえカットされても出演者なのでクレジット表記されなければならず、洋画なら末端に至るまで出演者が載りますよね。道路の端で車をかわすだけでもスタントマンとして載るんです。これはユニオンがしっかりしているからですよね。ですから高瀨道場では契約を明朗に行うために、ガイズエンタティメントを設立しました。

そういった意味で、我々は制作会社に煙たがられても契約はきちんとするようにしています。私自身が殺陣師や監督として行くときでも、ガイズエンタティメントを通してギャラ交渉させていますし、俳優が必要となったときも事務所がキャスティングをして支払い形態を明瞭にしています。

■ 契約システムは、一向に改善されていないのが現状

端的に言って、一部の契約状況は劣悪なままです。そもそも俳優のマネジメント自体、歴史が浅く、ここ40〜50年で培われてきた特殊な形態です。基本的に俳優は映画会社の専属だったわけですから、マネージャーはいない。映画会社が製作を中止したとき、行われるのがリストラで、俳優はフリーランスになっていった。そこで俳優はマネージャーに自分の営業を任せる、という方法論が生まれたんです。でも、日本には純然たる俳優のユニオンは存在しないので、条件が悪くても仕事を受けないと今後につながりません。

こうした状況が改善された面もありますが、ギャラ未払いは公にならないだけでたくさんあります。

一方でエキストラの最低料金は確立され、拘束時間も決まっています。エキストラとしての10日間の拘束料金が、俳優としての10日間の拘束料金を上回ることすらあります。 俳優のギャランティがエキストラに及ばないケースがあるのはゆゆしき問題です。

■ リュック・ベッソン監督を通して見えた海外映画と日本映画の違い

以前、リュック・ベッソン監督の『WASABI』のお手伝いをさせていただきましたが、その際に、海外のプロデューサー、監督というのは非常に力を持っているというのがよくわかりました。日本では、そこまで力をふるえて、監督とプロデューサーを兼務している人は思い当たりません。

そもそもプロデューサーの力量というのは、企画を立ち上げてそれを成立させる、資金を調達できるという役割がありますが、今は映画製作の何たるかを知らなくても、資金が集められたらプロデューサーになれてしまいます。対してベッソンは、カメラのレンズからフレーム、ライティングまですべてを熟知しているうえ、自分の信用で資金を集めることができるという点で大きな違いがあるのです。

ひとつ言えるのは、日本のプロデューサーは全責任を負わなくても済むということ。現在、ほぼすべての映画が製作委員会システムですよね。あれは責任の分散です。その点、リュック・ベッソンフィルムは気合いの入り方が違います。

■ 外国で、日本人はみな武道ができると思われている?

当道場の師範である森聖二は、『ラスト サムライ』の日本サイドのアクション総監督を務めました。師範たちは、自分たちのキャリアの裏付けということで、モチベーションが上がったと思います。事務所の運営にあたっても信用が倍加したことはたしかです。

邦画、洋画問わず誰もが理解できる共通の表現は、アクションだと思います。言葉がなくても通じますから。

ちなみに、海外作品に何本か携わって感じたことですが、外国の方は、日本人が全員武道ができると思っています。大半のスタッフは、日本人が今でもみんなちょんまげをしていると思っているみたいで……。そのため、我々は海外作品でのスタッフの顔合わせには、着物を着ていきます。反応が違いますね。逆に言えば、日本に対してそういう認識しか持っていないんだなと残念に思いますが……。

■俳優とは異なる殺陣師ならではの醍醐味

道場が誇る美しき剣士の華麗な殺陣

殺陣師は表現者です。ダンスの振付師と同じ。彼らはダンサー出身ですよね。ダンサーでなければ振付師にはなれない。殺陣師も俳優を経験していなければ、殺陣師になることはできません。

最初から殺陣師になりたいという人には、まず自分が俳優のポジションに立って動けなければ説明できないので、まずは表方、つまり演技者を経由してからでないと無理だと説明しています。

スタッフの中では極めて特殊な形態で、だからこそ我々は殺陣師として日本俳優連合の中に部会を持っているわけです。自分たちも表現者だという意識がありますよ。殺陣師は、やってみせることから始まります。ですから俳優の作業も理解していなければならない。

そのうえで殺陣を構成するときは、俳優になるべく振りを正確にわたすため、自分を「素」にして手順を組むようにしています。殺陣師の表情や息づかいをコピーするのではなく、どう表現するかは俳優自身の方法論で完成してもらいたいと思っています。

■海外公演では観客にウケるようにアレンジ

今までにタイのバンコク、トルコのイスタンブールで公演したこともあります。我々以外にも殺陣の海外公演をしたチームはいくつかありますが、タイとトルコではおそらく我々が最初ですね。

現地でのリアクションは想像以上のものでした。いわゆる日本武道の演武公演は広く行われているのですが、型演武という形態が外国の方には理解できないようで、もっと激しいものを期待しているんです。

殺陣やアクションというのは、あくまで観客やカメラに見せるための演技。実際に切ったり突いたり殴ったり蹴ったりするわけではないですが、正面から見ている限り、刀の切っ先が相手の胴にしっかり刺さっているように見えるので迫力があり、悲鳴も上がります。

戦いの演技をライブでご覧になったことのない外国の方には非常にウケますよ。素直な手ごたえを感じましたね。タイ国在留邦人会から企画のオファーを受けたときは、“ニンジャ”としてやってほしいとのことでした。タイではブルース・リーとの区別がついていませんし、トルコでも似たようなもの。日本で行うときには、武道家、格闘家に見せても間違っていないと言われるような動きを目指していますが、あちらではあくまでウケるようにアレンジして演じました。海外では何でもありですからね。ちょっと演出過剰なぐらいにしないと。

■未来を担う子どもたちにも殺陣・アクションの魅力を伝えたい

アクションを学んだ子どもたちからのメッセージはいつも目に入るところに

子どもたちにアクションを教えるとき、手応えを感じなかったことはありません。本当に喜んでくれますね。仙台でのワークショップ「子ども芸能体験」では、家族を震災で失ったお子さんもいて、つらい経験を子どもたちに思い起こさせることなく時間を共有できたので、いいことをさせてもらったなと思っています。

夏休みなど学校が長期の休みになる頃に再度行う予定があるようですので、時間がとれれば大勢で参加したいと思っています。我々芸能関係者ができることといえば、こういうことぐらいしかないですから。

■PRE製作・DVD『ザ・シネマアクション~安全なアクション演技のために~』で製作協力

撮影現場での安全を啓蒙するPRE製作のDVD『ザ・シネマアクション~安全なアクション演技のために~』の製作に協力させていただきました。

予算の関係上、撮影日数が3日間。施設を使える時間が限られていたので、撮影実働時間が毎日6時間、のべ18時間ちょっとしかなかったのが厳しかったですね。でも、制限された環境下でどれだけの作業をするかは職業人としての手腕の見せどころだと思います。

殺陣とアクションのきちんとした内容を見せるのはともかく、失敗した例をいかに自然にわざとらしくなく見せるか、というのがあれほど大変だとは思いませんでした。例えば切っ先を人の目の前に向けたり、顔の前でやみくもに振ったりといった危ないケースを演じようとすると、どうしてもわざとらしくなり、NGを連発してしまいました。リアルに失敗したように見せる演技は難しいですね。

今回はあくまで基本編なんですが、演技を重ねれば重ねるほど、実は危険の度合いや機会が増えていきます。機会があれば、応用編としてほかにも気をつけなければならない場面があるということを啓蒙するDVDができればいいなと思います。

よほど危険な作業、いわゆるスタントは別として、ホームドラマにもアクションが出てくることがあります。例えば、食卓のシーンで喧嘩して転ばなければいけないとき、俳優は何の準備もせず、いきなり演技できるでしょうか?

監督を含むスタッフも、アクション作品に携わったことのない人が少なくありません。 安全に対する万全の備えがなければ、俳優も安心して演技できないと思います。そういったことを応用編で説明していきたいですね。

DVD作成はとても光栄な仕事で、こちらも勉強になりましたし、その機会を与えていただいたことに感謝しています。

■殺陣は、ひとつの演技を成立させるという達成感に満ちた作業である

研ぎ澄まされた動きと迫力が見る者を圧倒する技斗

テレビ、映画、Vシネマなどの映像が我々のおもな活動の場ですから、これからもオファーに従ってやっていきますし、今もいくつかオファーを頂戴しています。私の監督作品の企画も進んでいる最中ですので、順調にいけば今秋には形になってくると思います。それをきちんと成立させるというのが活動予定であり、目標ですね。

また、一般の方にも門戸を開放した殺陣という技芸の教室を広めていくことは、今年に限らず道場の大きな目標です。

殺陣という芸事は一人ではできないんです。必ず相手がいなければいけない。勝ち負けは決まっているけれども、負けるほうもいかに自然に負けるかという、必然性が求められます。そうなると、勝つ側と負ける側のコンビネーション、調和がとても大切なんですね。

各々の呼吸をあわせてひとつの演技を成立させるという、とても達成感のある作業なので、「安全に、迫力のある、華麗な動きを披露する」というアクションの面白さ、楽しさをプロの芸能家だけでなく、一般の人にも知っていただきたいと考えています。

高瀬道場/株式会社ガイズエンタティメントホームページ http://www.takase-dojo.com/

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